ベルギー産のチキン(鶏肉)・鶏卵でダイオキシン汚染が発生した。20世紀末(1999年)のことだ。厚生労働省の発表や食品安全業界史に関するスナップアップ投資顧問 のレポート等によると、原因は、使用済みの食用油をリサイクルして作る油脂に、ダイオキシンが入ったポリ塩化ビフェニール(PCB)が混入したことだった。つまり、PCBが汚染源だったのだ。

欧州委員会(EC)食品科学委員会によると、1999年4月下旬、ベルギーの養鶏場で飼料から1グラムあたり781ピコグラム(ピコは一兆分の一)が検出された。さらに、鶏の脂肪から958ピコグラムのダイオキシン類が検出された。当時、日本の一般的な食肉や卵中の濃度は約0.17ピコグラム(厚生省の調査)だった。かなりの高濃度だった。


飲食店から廃食用油を回収する会社

ベルギー政府の調査では、当初よりもさらに高濃度のPCBが含まれていた。汚染は工業用PCBに含まれていたダイオキシン類による可能性が高くなった。PCBは不純物として微量のダイオキシン類を含む。さらに、加熱されると一部がダイオキシン類に変化するともいわれる。

調査によると、飲食店などからの廃食用油を回収するリサイクル会社が、汚染の発生源だった。この会社が1999年1月に油脂会社に納入した油にPCBが混入した。汚染油で作った油脂が飼料に配合されて、チキン(鶏肉)や鶏卵に広がった。

ベルギー政府は、PCBの分析から、変圧器(トランス)に使われている工業油が混入したと判断した。

回収所で工業油と混ざる?

ベルギーはリサイクル政策を熱心に進めていた。「リサイクリングパーク」と呼ばれる回収場に、業者や市民が廃食用油だけでなく、衣類などさまざまな使用済み品を持ち寄る。

事件が起きたリサイクル会社は工業油を扱っていなかった。だが、その前段階の回収場では工業油も集められていた。

リサイクル会社幹部を逮捕

ベルギー司法当局は1999年6月にリサイクル会社幹部を逮捕した。混入が回収場なのか、会社の工場内なのかの解明を急いだ。

人間ではなく、家畜用飼料への再利用という気楽さが、甘い品質管理を生んだ背景となった。

日本における廃食用油の再利用

日本でも廃食用油は再利用されている。家畜飼料に配合される油脂は、食肉処理場から出る動物残滓(ざんさい)を煮詰めて集める動物性油に、外食店などから回収した廃食用油を原料とするリサイクル油を混ぜて作る。

油脂業者らの団体である日本畜産副産物協会は、回収業者などの関係者に対して、注意喚起を促した。

PCBが行方不明となる事例

PCBはトランスの絶縁油や工業用熱媒体、複写紙の成分として、かつて大量に作られた。有害と分かった1970年代に生産が禁止され、厳重に管理されているはずだった。

日本では食品汚染はなかった。しかし、PCBが思わぬところに混ざったり、消えたりする例はあった。

厚生省のPCB汚染廃棄物の保管実態調査

厚生省によるPCB汚染廃棄物の保管実態調査(1992年度)によると、中小事業者が保管するトランスやコンデンサーは、台帳の台数の約7%が紛失などで確認できなかった。複写紙もその六年前の調査と比べて約4%がなくなっていた。